ジンベエザメの回遊経路調査(バイオロギング)

ジンベエザメは、初夏から秋にかけて日本列島の主に太平洋側沿岸を南から北に向かって回遊していると考えられています。この回遊経路を調べるため、平成23年から北海道大学と共同で小型の記録装置(データロガー)を取り付けて放流する手法(バイオロギング)で調査を開始しました。平成27年に行った6ヵ月間の調査では、高知県以布利を出発したジンベエザメがフィリピン海域まで南下したことがわかりました。引き続き生態を研究し、ジンベエザメの保全に貢献したいと考えています。

バイオロギングとは

バイオロギング(Bio-logging)とは、生きものに小型の記録装置(データロガー)を付けて、その生きもの(Bio)が自らの記録(logging)した行動を解析する研究手法で、なかでも観察が難しい海洋生物の海中での行動を調査研究で成果を上げています。近年、記録装置の小型化デやジタル化などにより、様々な生きものを対象に研究が進み、その成果が世界中で注目されています。

海遊館では北海道大学とジンベエザメの回遊 経路を共同研究しており、平成23年に開始してから毎年1匹のジンベエザメに小型の記録装置を取り付けて放流しています。小型記録装置は、計画した調査期間が経つとジンベエザメの体から自動的に外れ、記録されたデータは人工衛星(アルゴス)を経由して得られる仕組みです。記録する項目は、回遊経路(位置)と遊泳水深、水温です。

小型記録装置(長さ約20cm)

ジンベエザメの背鰭に付けた小型記録装置が外れて浮上しデータを送信

ミナミイワトビペンギンの人工繁殖

ミナミイワトビペンギンの繁殖率向上を目的に、2011年より繁殖生態の解明と人工繁殖技術の確立を目指し、神戸大学大学院農学研究科と共同研究 に取り組んできました。 研究開始から6年目の2016年は、葛西臨海水族園(東京)の協力を得てオスから精子を採取し、海遊館で飼育中の3羽のメスに人工授精を行いました。人工授精を行った3羽のメスは、計5つの卵を産み、3羽の雛が誕生しました。卵の殻の内側に付着した血液からDNA検査を行った結果、3羽のうち1羽が人工授精による雛の誕生であることが判りました。海遊館では、今後、この人工繁殖技術を国内外の水族館や動物園に普及し、ペンギン類の繁殖を向上させるとともに、精子を凍結保存する技術を確立させて、絶滅の恐れがある野生下のミナミイワトビペンギンの種の保存にも貢献したいと考えています。

人工授精による雛誕生の要因

  1. ①メスの血液検査から産卵日を推定し、授精に最適なタイミングで人工授精を実施できた。
  2. ②ペアをつくっているオスが交尾を行う前に人工授精を行うことができた。
  3. ③葛西臨海水族園のオスから、良好な精子が採取できた。
  4. ④予備実験を経て葛西臨海水族園から海遊館まで、精子の性状をあまり劣化させずに輸送できた。

過去に成功できなかった原因のひとつに、海遊館のオスの精子性状が低い可能性も示唆されている。

前回の人工授精からの変更

前シーズン(2015年春)にも受精卵が得られ、人工授精によるものかと期待されたが、卵から雛が孵らず、DNA検査の結果も自然繁殖による受精を示しました。
そこで、今シーズンは、昨年の失敗要因を考察し、大きく2つの点を変更した。

  1. ①メスの血液検査を基に受精に最適なタイミングの少し前、すなわちペアのオスが交尾する前に人工授精を行う。
  2. ②人工授精を実施したいタイミングに精子が採れるオスが、時期的に海遊館にいないため、葛西臨海水族園のペアをつくっていないオスから採取した精子を用い、凍結せずに液状輸送する。

葛西臨海水族園のミナミイワトビペンギンの繁殖ピークは、海遊館の繁殖ピークより少し早いことがわかっていたため、
今回、よいタイミングで人工授精を実施することができた。

【備考】

海遊館と神戸大学大学院農学研究科の楠 比呂志氏(准教授)は、ミナミイワトビペンギンの繁殖生理を解明し、人工繁殖の技術を確立することを目的として共同研究を行いました。研究テーマは「行動観察による交尾時期の特定」、「メスの血液性状からみた受精および産卵日の特定」、「エコー検査による排卵日の特定」「精液採取法の開発」と「精液の保存法の確立」など。

機関誌「かいゆう」vol.18(2015年4月)ミナミイワトビペンギンEudyptes chrysocome chrysocome の繁殖への取り組み

ワモンアザラシの完全人工哺育

海遊館では2013年3月よりワモンアザラシの展示を行っています。2021年4月1日に当館では初めてとなる出産がありました。しかし、出生直後に新生仔に低体温などの体調不良が見られたことから、仔を取り上げて処置を行いました。その後も仔の状態が安定しなかったことから、親元に戻すのを断念して飼育員が親代わりとなって育てる完全人工哺育へ移行しました。ワモンアザラシは飼育下での繁殖例が非常に少なく、今回の完全人工哺育は国内では初の試みだったため、参考になる資料は少なく、人工哺育中に便が出なくなる、体重が増えないなどの問題が起きましたが、その度に担当飼育員全員で毎日試行錯誤をしながら進めました。その甲斐もあり、無事に展示を行えるまでに成長しました。

館内4階「北極圏」水槽周辺で2021年8月1日から2022年12月18日の期間、ミゾレの成長過程とともに、人工哺育の裏話や飼育員の思い、成長過程で抜け落ちた白い体毛を展示したパネル展「ワモンアザラシ誕生から100日間の成長記録」を開催しました。

【左】人工授乳を行う際使用したシリンジとチューブの展示
【右】生後1ヶ月ほどの短い期間だけ生えている「白い毛」の展示