期間限定になりますが、とてもかわいらしい姿をご覧いただいている、リスザルの赤ちゃん「ポメロ」。
「ポメロ」という名前は「大きく育ってほしい」という願いから・・・。
柑橘類では最大級の大きさとなる東南アジア原産の「ポメロ」から命名しました。
さて、今回は「ポメロ」が誕生するまで、詳しく!お話します。
お父さんの「ジャック」とお母さんの「キカ」を同居させたのは今年の3月。
「ジャック」が「キカ」に好意を持っている行動をよく見かけ、交尾も確認していました。「ジャック」は今年19歳のおじいちゃんですが、よくがんばっています~
お母さんの「キカ」のおなかは、7月ごろにはとても大きくなっていて、いつ産まれるのだろうかとリスザル担当者全員どきどきです。
一般に、リスザルの妊娠期間は150日前後です。8月に入ると、毎朝、「産まれてないかな?」と予備室を見に行きました。
そして、ついに8月14日の朝、背中に小さな赤ちゃんがちょこんと乗っていました!!
赤ちゃんは元気かな?と親子を観察していたところ、「ポメロ」はお母さんのおっぱいを探してうろうろしています。
出産経験のある「キカ」ですが、何か落ち着きがありません・・・。
ポメロが乳をくわえるのは数回確認しましたが、どうも乳を飲めていない様子です。一日くらい様子を見ることも検討しましたが、「ポメロ」が元気なうちに人工保育にしたほうがよいと考え、生まれた当日の夕方から、人工保育を開始しました。
海遊館では、開館してからこれまでに20回、リスザルの赤ちゃんが生まれています。そのうち、赤ちゃんが1年以上育ったのは13例あるのですが、人工保育は「ポメロ」が初めてです。
「リスザルの人工保育」に関する資料をもとに、「ポメロ」を保育器に収容し、人間用のミルクで授乳開始です。
哺乳瓶はネコ用のもの(海遊館では、コツメカワウソでも使用)を準備しましたが、若干大きいので、初めの数日は1ccの注射器の先に虫ゴムをつけたものを使用しました。
こちらは、ネコ用の哺乳瓶
いずれにしても吸い口がお母さんのおっぱいと違うようで、人工保育を始めた直後は、あまり飲んでくれませんでしたが、思ったよりも早く順応し、哺乳瓶で少しずつ飲み始めました。どうなることかと心配していた担当者一同、ほっと胸をなでおろしました。
生後1週間は一日に9~13回の授乳を行いました。現在は一日3回、一回に20cc近く飲むようになりました。
「ポメロ」の体重は、人工保育の開始時が105g、現在では体重240g、大きくなったもんです。ちなみにリスザルの成獣は雄で900~1,000g、雌で500~700gくらいです。「ポメロ」は雄ですが、どれぐらい大きくなるでしょう?
ところで、リスザルの赤ちゃんは、産まれてすぐに母親の背中に乗り、生後2カ月頃まではほとんど背中で過ごします。なので、赤ちゃんのために、お母さんの背中に代わるものが必要と考え、産まれて1週間まではカピバラのぬいぐるみ(「カピぐるみ」と称します)をお母さん替わりにしました。
赤ちゃんは案の定、カピぐるみにしがみつき、背中に乗ってよい感じでした。
ところが、あまりにカピぐるみが好きすぎて、毛(化繊)をちゅぱちゅぱ吸うため、間違って飲み込んでしまうことが心配されたため、カピぐるみは使用禁止となってしまいました。
代用品として軍手や棒にタオルを巻いたものなどいろいろ試しましたが、単純にタオルを巻いたものが一番しっくりしました。特に速乾性のタオルが好きみたいで、綿100%のタオルよりも好きとか、好みがはっきりしていました。
リスザルは産まれた時、すでに目が開いています。
コツメカワウソの場合は、目が開くまでしばらくかかるため、生まれてすぐに目が開いているのは不思議な気分です。でも、物はよく見えていないようでした。
生後10日(写真8)ほどするとミルクを与える係員の顔も覚え、動きもしっかりしてきました。見慣れない人がいるとギャーと鳴いて怒ったりするようになりました。
また、生後1カ月頃から少しずつ歯が生えてきました。親が育てている時は生後2カ月くらいで母親の背中から離れ、母親の食べている餌を食べ始めるので、離乳は2カ月くらい先かなと考えていました。
歯が生えてくると口の中がむずがゆいためか、係員の指をかもうとすることがあったため、かんでもよい赤ちゃん用のおしゃぶりを与えたり、ぼちぼちとリンゴやバナナなどの果物を与え始めました。
両手でしっとリンゴを持ち、「なんだ、これ?」という顔をしていましたが、かじってみたら「いやーっ!なんか変な感触!」とぺっと吐き出していましたが、そのうち飲みこんだらおいしかったのか、少しずつ食べ始めました。
今では、果物だけでなくパンやゆで卵、サル用の固形餌料など親と同じ餌も食べています。写真は生後1カ月の頃の「ポメロ」です。
今回、人工保育を経験して気づいたことがあります。
リスザルの赤ちゃんは母親の背中にいるわけですが、母親が激しく動いたり、逆さになってもこどもがしっかりと背中にくっついているのでしょうか?
赤ちゃんの握力ってすごいのかなと思っていたのですが・・・。確かに赤ちゃんの握力は強かったです。でも、それだけではありませんでした。
生後1週間の写真です。首の下から胸の辺りを注目してください。
生まれてすぐの頃、首の下あたりには毛がほとんどありません。授乳の際、赤ちゃんのこの部分が係員の腕に触れると、ゴムがぴたっと密着する感じです。
なるほど!今回、「ポメロ」を観察するまで、生まれたばかりリスザルの赤ちゃんは、首が細いなと思っていましたが、母親の背中で生活する秘密だったのですね!
生後1カ月を過ぎると毛が生えてきて、今ではこのようになりました。
また、骨の病気にならないように、生後1カ月から日光浴を開始しました。期間展示中の今も天気の良い日は11:30~12:00の間、でかけていて観覧通路からはご覧いただけません。ご注意ください。
最近ではジャンプ力も増し、文句があるとギャーギャーと鳴く、わんぱく坊主に育ちつつあります。この2カ月あまり、「ポメロ」と一緒に私たち飼育係も成長できました。
・・・と、のんきなことを言えるのは、「ポメロ」が元気に育ってくれているからです。
長~い「海遊館日記」になりました。
これからも、「ポメロ」の成長を報告しますので、どうぞよろしくお願いします。